About RESUME~古き良き緻密な世界~ #5
いつも当サイトをご覧いただき、ありがとうございます。
奈良でヴィンテージウォッチを扱う【RESUME】です。
当店で行う作業内容などを紹介する~古き良き緻密な世界~
第5回となる今回のテーマは「オーバーホールの重要性」についてです。
機械式腕時計は電池で動くクオーツとは異なりゼンマイを動力源としているため、何十年にも渡り世代を超えて、ご愛用いただけるのが機械式腕時計の魅力のひとつです。
しかし実際に長く使用するには機械である以上、定期的なメンテナンスは欠かせません。
そこで、時計に対して定期的に行うのが「オーバーホール」(以下、OH)と呼ばれる作業です。
当店が行っているOH作業の詳細につきましては当コラムに掲載している~古き良き緻密な世界 #1~にてお伝えしていますので、是非そちらをご覧ください。
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今回は、OHを行わない場合、時計にどういった影響を与えるのかについて詳しくお伝えします。
さて、こちらの時計は10年ほど前に新品で購入した時計。
購入後、ほぼ毎日の頻度で使用していましたが、ある日突然動かなくなってしまいました。
特に落下などの衝撃を加えたわけでもないにも関わらず、なぜ急に動かなくなってしまったのでしょうか…
なお、こちらの時計は購入後から今まで1度もOHは受けたことがありません。
それでは原因を探っていきましょう。
まずはこちらの画像をご覧ください。
【焼き付きと摩耗により2番車の「ホゾ」が痩せています】
画像の2番車を見ると、軸の先端にある「ホゾ」と呼ばれる箇所が錆び、少し歪な形をしています。
【新品の2番車。ホゾを比較すると形状の違いが明確に分かります】
通常、機械式ムーブメントは「地板(じいた)」を基盤にして歯車などの垂直な軸のあるパーツを「受け」が上から挟み、歯車をサンドイッチのように固定しています。
軸は「地板」と「受け」に接しながら回転運動を続けていますが、軸に受ける摩擦を軽減するために、軸受けとして「石」が使用されます。
この石は人口ルビーなど摩擦抵抗が少ない素材が使われることが多く、さらに「石」を油の被膜で保護することで軸が削れるのを防ぎ、スムーズに動くように維持しています。
しかし、OHをせずに長時間使用すると、油は自然に揮発してしまいます。
油がない状態で使用し続けると「ホゾ」が穴との摩耗により焼き付いて削れてしまい、削りカスが発生します。
その削りカスが研磨剤の役割をすることで、さらにホゾを削る悪循環ができ、画像のように痩せてしまい、歪な形に変形させてしまうのです。
続いては3番車の画像です。
【3番車。ホゾが折れてなくなっています】
下の画像を比較すると、本来、先端部にあるはずのホゾが折れてなくなっているのが分かります。
ここでも先ほどお話しした現象が起きてしまい、3番車は2番車よりも細い軸なので摩耗が原因で折れてしまったようです。
どうやら今回、動かなくなってしまったのは、このホゾが折れてしまったために、正常に歯車の回転運動ができなくなったことが原因のようです。
【新品の3番車。2番車よりもホゾが細い】
動かなくなった原因は、ホゾが折れてしまったことによるものでしたが、折れていなくてもホゾが削れて痩せてしまうと、歯車に傾きが生じてしまい、動かなくなってしまうケースも多く見られます。
また、長時間稼働させた際にできる削りカスやホコリ、油汚れも放っておくと歯車の隙間に入ってしまうと、回転運動ができず、動かなくなる原因になることも…。
新しいムーブメントの場合は、パーツ交換で修理が可能ですが、パーツが出回っていない古い年代のムーブメントの場合は非常に難しい修理作業で修理費用がかかる場合や、状況によっては最悪修理不可能なことも十分にあり得ます。
一見すると調子よく動いている時計でも、長くOH作業を行わずにいると機械はまさに身を削りながら動いており、いつ止まってもおかしくありません。
今回ご紹介したケースはOHをしていない時計によく見られる現象。
適切なタイミングでOHを受けた場合は事前にパーツのダメージを防ぐことが可能なのです。
そのため、大切な時計を安心して長くお使いいただくためにも、3~5年を目安に定期的なOHを受けていただくことをおススメしております。
すべてはお客様に安心してヴィンテージウォッチをお使いいただく為に...
当店にて時計をご購入する際に、気になることやご質問などございましたら、出来る限りのご対応、回答させて頂きますので、いつでもお問合せくださいませ。
それでは、今後とも【RESUME】をよろしくお願い申し上げます。